1. なぜ焦点化が後工程の質を決めるのか

- Kuhlthau の ISP:開始 → 選定 → 探索 → 焦点化 → 収集 → 提示。焦点化は不確実から明確へ転じる転換点。

- Vakkari の三段階:pre‑focus → focus formulation → post‑focus。焦点化後はクエリが狭まり、判断の一貫性が高まる。
- 結論:焦点化のない収集は「ノイズの堆積」、焦点化された収集は「高密度サンプリング」。
2. 三つの支援ディメンション(3 dimensions)
- Input & Control(入力・制御):問いの表現と限定の仕方。
- Informational(情報提示):結果の理解と比較の仕方。
- Personalizable(プロセス・個別化):思考の記録と追跡の仕方。
要点:拡張より取捨、羅列より対比、思いつきより記録。

3. 焦点化パイプライン(Focus Pipeline)
- Semantic stabilization(語義の定着): 口語的表現を領域の標準用語に言い換え、同義・上位/下位の選択を明確化する。
- Facet bounding(ファセットの境界設定): 時間・地域・対象・方法・コンテクスト等の境界を先に決める。
- Criteria formation(判断基準の形成): 「関連性」を可視の次元と閾値に分解(質・即時性・権威性・適合度・一貫性)。
- Statement hardening(表現の固定化): 「一文の問題定義」とキーワードパックを作り、版管理で記録する。
- 失敗の典型: 定着前の大量収集/境界未設定の条件追加/基準未形成の印象選別。
4. 関連性をブラックボックスにしない(Relevance as dimensions)
- Evidence hierarchy(質):システマティックレビュー > 実証研究 > データ > 論評 > 転載
- Timeliness(即時性):公開・データの時間窓と減衰方針
- Authority(権威性):トップ会議・トップ誌/公式/機関レポート
- Fit(適合度):対象・方法・コンテクストの一致度
- Consistency(一貫性):現行焦点との支持/補完/反駁の関係
取捨は「無限スクロール」ではなく並列比較で進める。
5. アンチパターンと原則(System‑agnostic)
- Term stacking(語の積み上げ):ファセット化と排他選択。一度に変える要素は一つ、戻せること。
- Confirmation bias(確証バイアス):二列比較で出典タイプと証拠レベルを明示。
- Scope creep(スコープの漂流):決めたファセットはロック。変更には理由の記録を必須化。
- No counter‑evidence(反証不足):反命題/代替理論の最小反証入口を自動提示。
6. 複雑さを「刃の当たる場所」に集約する
- 無関係な複雑さを削減:今の取捨に関係しない要素は隠す。
- 有益な複雑さを増やす:取捨の次元、対比関係、バージョン差分を明確化。
7. システム能力の要件(UI ではなく思想レベル)
- 語義の定着:口語→標準用語。同義/上位下位の選択履歴を保持。
- 関連性の分解:ランキング理由を可視次元に分解し、重みづけ・トレードオフを支援。
- 焦点バージョン:変更のたびにトリガーとなった証拠と理由を追跡可能に。
- 基準の蓄積:包含/除外基準を構造化保存し、後続の編成・順位付けに利用。
- 反証生成:最小反証セットを動的に生成し、エビデンスグラフに反映。
- 進行の可視化:検索プロセスの版・理由・判断過程を俯瞰できるようにする。
8. LLM と結びつけるための思想指針
- 第一原理は「焦点化を促進する」こと。LLM は回答量ではなく、問題定義の言語化・安定化を支援。
- 認知リズムは「広→狭→安定」。同時に発散と収束を走らせない。
- 関連性は議論可能な対象に分解し、取捨理由を言語化する。
- 常に「反証スロット」を持つ。最小反命題/代替理論を並走させて頑健性を担保。
- バージョン思考と理由連鎖。A→B の変化理由を記述し、学習・再現性を高める。
- 成果評価は「派手な回答」ではなく「焦点化の質」(Time‑to‑Focus、バージョン安定度、反証カバレッジ、合格証拠率、信頼感の推移)。
9. おわりに
焦点化は偶然のひらめきではなく「作業として作られる」プロセス。語義→境界→基準→表現を順に固め、検索システムは「リンクを増やす」のではなく「問題を明快にする」ために設計されるべき。
参考
Huurdeman, H. C., & Kamps, J. (2020). Designing Multistage Search Systems to Support the Information Seeking Process. In W. T. Fu & H. van Oostendorp (Eds.), Understanding and Improving Information Search: A Cognitive Approach (pp. 113–137). Springer. DOI: 10.1007/978-3-030-38825-6_7


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